「腹膜透析装置”ゆめ”とのお別れ」

退院から5日。
まだまだ本調子にはほど遠いが、回復基調は不変。
手術から3週間でこれなら、十分だと思う。
今のところ問題ないと思うが、明日初の外来なので、はっきり分かる。

今日は2013年8月の人工透析開始(高血圧による腎硬化症が原因)から、
今回の入院まで使っていた腹膜透析機器「ゆめ」(バクスター社製)の引き取り日だった。
ご存知の通り、腎機能が悪化し、「慢性腎不全」になると、
人工透析を行わなければなりません。今は毎年3万人ずつ増えているのだとか。
腎臓の代わりに機械の力により、体内の老廃物の除去と、水分の排出をします。

一般的に透析というと「血液透析(略称=HD)」を指します。
腕に針を2本さし、人工透析装置(ダイアライザー)と接続し、
概ね週3回、4時間、透析を行います。
現在日本で透析をしている人の90%以上がこのスタイルです。
血液透析の欠点は上にあるように、週12時間、絶対に病院へ行かないとダメな点。
大雨だろうと台風だろうと、大雪だろうと、休むことは許されない。
だいたい、月水金か、火木土。準備や撤収を含めると最低でも5時間は必要。
これでは一般的な社会生活との両立はなかなか難しい。
最近では泊まりながら寝ている間に行う「夜間血液透析」も増えていますが、
対応している施設はまだまだ少ない。費用もやや高めらしいし。
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もうひとつの透析手法に「腹膜透析(RD)」というのがあります。
これは自分のお腹にある腹膜内に、透析液(ブドウ糖などで構成)を腹部に作った
カテーテルを通じて注入し一定時間貯留します。そして、浸透圧の原理で水分と老廃物を
除去し、そのカテーテルを経て排出する、というものです。
さらにその腹膜透析には、昼間行う「CAPD」と、夜間(就寝中)に行う「APD」があります。
薬液さえあれば、CAPDは手動でもできます(点滴のように袋を垂らすことで流す)が、
「APD」は原則として機械で行います(基本的に全自動です)。
なお、腹膜透析は毎日必ず行います(365日)。例外はありません。
腎不全になった時、血液透析か、腹膜透析かを選択します。私の場合は

(1)仕事を今まで通り続けたかった(APDなら帰宅後就寝中にできる=所要8時間)。
(2)透析液、機器の自己管理ができる若さがある(血液透析は基本的に全て病院任せ)。
(3)腎機能がまだ残っている(血液透析の方が透析能力は優れるが、腎機能の低下が早い)。
(4)(1)とも関連するが、週3回の通院が不要、月2回の定期外来のみ。
(5)かかりつけの大学病院が腹膜透析普及に積極的だった。

以上の理由で腹膜透析(APD)を選択しました。

自宅の自室に機器(ひと昔前のビデオデッキ2台分くらいの大きさ)を置き、
このほど、腎臓移植するまでの間、ほほ毎日腹膜透析をやってきました。
確かに、これで夜間透析を行えることで、会社にはなんとか通うことができました。
これは腹膜透析の最大にして、唯一(と言い切るのは微妙ですが)の利点だと思います。
まあ、体に優しい透析方法である、というのもありますが。
実はマイナス面も多くありまして

(1)血液透析より透析能力が劣るため、特に体が大きいと透析不足になりがち。
(2)腹部カテーテルの衛生管理が必要=腹膜炎に感染する率が比較的高い。
(3)腹膜が劣化し、生命の危険もある被嚢性腹膜硬化症(EPS)に陥る可能性がある。
(4)いずれは血液透析へ移行しなければならない(5~8年位経過後、腹膜劣化により)
(5)透析液を1日10リットル近く使うため、液の保管、補充、破棄、容器の清掃などが大変

などがあります。
実際、私は体が大きいため、透析不足による足のしびれや冷え、体のだるさ、声の枯れなど、
さまざまな症状に悩まされました。正直、会社には行けたものの、もう必死で、
ほとんど気持ちに余裕がない感じ。でも、血液透析は選択できない、厳しい状態。
だから、2013年夏から、2016年頭頃まで、あまり記憶がないんだよな。何をしたのか。
腹膜透析中心の生活過ぎてしまって、余裕がなかった。

あと、これは腹膜透析とは直接の関係はありませんが、腎不全により、肌が弱くなったため、
低温やけどで褥瘡ができ、蜂窩織炎にかかってしまうこともありました。
さらに、腹部のカテーテルより腹膜炎に感染、そして、カテーテルが腹膜内で固定されている
のですが、何らかの理由で腹部で動いてしまい、透析液の適切な注入と排液が困難になり、
体重が異常に増加(むくみが原因)と、透析不足による体調悪化で長期入院に至りました。

厚生労働省は「腹膜透析(PD)ファースト」を掛け声に、血液透析よりコストの安い
腹膜透析の普及に力を入れているようですが、現状、私の経験からしても、
一層の普及はまだまだ課題が相当多いなというのが印象。一説にはシェア5~8%だとか。
高齢者や一人暮らしの方には、あまりに負担が大きく、選択は現実的ではありません。

結局、約2年半腹膜透析を毎日行ったものの、腹膜炎とカテーテルの不全による入院後は、
会社を休職し、血液透析を併用(週1回→週2回→週3回・それに合わせ腹膜透析の回数を減少)、
減量と体内の水分除去を確実に進めたうえで、このたびの腎臓移植となりました。

今思えば苦しい日々でしたが、ギリギリのところで社会生活ができたのもの「ゆめ」のお陰。
移植後、腎機能が比較的早期に安定し、排尿も違和感が短くすぐ正常になったのも、
血液透析の期間が短かったため、腎機能の低下を最低限に抑えることができたことが遠因です。
引き取りの業者さんが来た時は感慨深い気持ちになりました。
今までお世話になりました。なんやかんやで私を救ってくれたのは「ゆめ」です。

■追伸
透析というと、廃人同然のイメージを持たれている方が多いです。以前は自分もそうでした。
これから透析になる可能性がある人が読んでいたらひとこと。
透析を過度に怖れないでください。少しでも患者の負担を軽くする様々な取り組みが行われています。
先生や技士さん、看護師さんは、皆さんの味方です。無理のない透析生活は必ず実現できます。
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by navona1971 | 2017-02-16 09:59 | 腎移植(その後の出来事) | Comments(0)